「弁護士」と聞いて、どんな人を思い浮かべるだろう? ルール(法律)に則り物事を判断する、論理的かつ合理的な判断をするといったイメージが先行する人も多いのではないだろうか。

しかし、そんなイメージのある弁護士から、人と「情」でつながる世界を求めてセカンドキャリアを選択した女性がいる。プルデンシャル生命で営業管理職に就く、藤田沙穂里さんだ。彼女はこの春、同社で女性の前例が極めて少ない “支社長” に就任した。これからは“支社”という一つの組織をまとめ、経営することになる。

そんな藤田さん、学生時代には大きな挫折を経験し、その後、長い苦学の期間を経て念願の弁護士となったという経歴を持つ。彼女はその後、なぜ生命保険会社の女性リーダーとなる道を選んだのか――。

彼女を突き動かす原動力は、30歳のときに人生の恩人から贈られた、一つの “言葉”だった。

前編:恩人との出会い、そして弁護士になるまで
後編:プルデンシャルに転職して得たものと「My Rules」(←今回の記事はココ!)


私にとって、ライフプランナーの仕事は「弁護士の延長線上」にある

思春期を過ぎるまで、読書を優先するあまり積極的に友達付き合いをしてこなかったという藤田さん。だからこそ、セカンドキャリアとして選んだ「ライフプランナー」という仕事はとても刺激的だった。

「毎日が出会いに溢れ、たくさんの方の人生観や夢、ご家族への想いをお伺いすることができます。そして社内でも、自分とは違う才能を持つ方々に多くの刺激を受けて、『私は人間が好きなんだな』と実感するようになりました」

人との出会いだけではなく、ライフプランナーという仕事に感じる魅力も語ってくれた。

「簡単に言うと、『弁護士はトラブルになってから助ける仕事』です。でもライフプランナーなら保険を使って『トラブルに巻き込まれないように』先回りしたご提案をしたり、たとえ保険と関係がない分野でも、お役に立てることもある。つまりお客さまをトラブルから守って差し上げられるわけです。弁護士として得た、法律や相続、事業経営に関する知識を活かしながら人の役に立つことができる。だから、ライフプランナーになっても “弁護士を辞めた” という感覚がないんですよ」

自分にとって、ライフプランナーとは「弁護士の延長線上」にある仕事。そして、論理的かつ法的な目線で考えることは、自分のアイデンティティだと話す藤田さん。

「弁護士事務所時代は、独立するか、企業の法務部門に入るかという選択肢しか見えていませんでした。弁護士の働き方も多様化していますが、まだまだ選択肢は多くない。そこに対して、『弁護士としての知識や経験を武器に、ビジネスもできるよ』と新しい働き方を投げかけられたらいいなとも思っていました」


「人の人生を変える」経験を、私も。選んだ管理職の道

ライフプランナーという仕事に使命感を感じていた藤田さんが、なぜ管理職になる道を選んだのだろう。その背景にも、恩人の木村先生の存在があった。

「司法試験に合格したと報告したとき、泣いて喜んでくださったことは先ほどお話した通りです。そのとき先生は、『私に人の人生を変える経験をさせてくれてありがとう』とおっしゃいました。当時は、そんなに嬉しいものなのかな?とピンとこなかった。でも、この言葉はずっと私の中に残っていて、いつしか『自分も先生と同じ経験をしてみたい』と考えるようになっていました」

思えばずっと一人で戦ってきた、という藤田さん。

「ライフプランナー時代は、『ただお客さまのことを考えて一人でやっている』という感覚でした。でも、管理職である営業所長になってからは、仲間と呼べるチームができて “孤独” から卒業できました。営業所長はライフプランナーをリクルートして育てる役割ですが、私は自分とは違うタイプの人も探します。学歴や前職よりも、『人に愛され、信頼される人物か』を重視していたんです。勉強して学べる知識ならば、私が教えればいい。だから私よりも多くの人から愛される人に、私が持っている知識を付けていけば、どんどん強いチームになっていく。それが本来の“多様化推進”の価値だと思いますから」

ライフプランナーが「お客さまに寄り添う仕事」だとすれば、営業所長は「そんなライフプランナーに寄り添う仕事」だと言う。「だから、自分の子どものように抱きしめられる人、受け止められる人しか採用しませんよ」と、藤田さんは笑顔を見せた。

「入社時に、金融に関する資格取得の勉強についていけないライフプランナーがいました。ここで躓かせてはいけない……と思い、まるで家庭教師が生徒に勉強を教えるように、手取り足取り解説したこともありましたね。でもそんなライフプランナーが、今では法人のお客さまを相手に決算書を読み解き、生命保険活用のご提案をしているんです。私には4歳になる娘がいますが、子どもの成長を見守るのと同じ気持ちです。成長が嬉しくて泣けますよ、ほんとに(笑)」

藤田さんは、人の成長を喜べることが管理職の醍醐味だと話す。「もしそのチャンスがあるのなら、一度は管理職という立場も経験してみてほしいなと思います」

▲藤田さんと営業所の皆さん


藤田さんの「My Rules」

チームで戦うことの楽しさを知り、孤独から抜け出した藤田さん。営業管理職としてメンバーと接する上で大切にする“ルール”を伺った。


青春を生きる

「これは、人生でたった3度しか会うことができなかった祖父が私にくれた言葉です。当時73歳だった祖父から『お前は今、青春を生きているか?』と聞かれました。そして、『俺は今、青春を生きているぞ』と。青春というのは心の様子を表すのであって、年齢ではないということです。折に触れ、自分にもメンバーにもこの言葉を投げかけています」

自らが「青春を生きる」ことができるよう、心のバランスを取る時間を意識的に作るのも、藤田さんの流儀だ。

「今でも歴史や文化を感じられる場所が好きです。幼いころから変わりませんね。私の趣味は旅行ですが、リゾートよりは歴史のある場所を訪れます。そこで歴史に想いを馳せると、自分の悩みはちっぽけなものだと実感できます。自分の心を解放するんです」


早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け

「これも大好きな言葉です。生命保険の営業は、個人のイメージが強いかもしれません。でもプルデンシャルにきて、仲間と一緒に戦うことで強くなれるのだと教わりました。たった一人ではできることに限界がある。でも個性溢れ、お互いを尊敬し合える仲間たちと一緒なら、もっと高く、もっと遠くまで走れるかもしれない。だから私はプルデンシャルという会社にいるんです」


怯むことなく組織の“トップ” を目指す

「私は学生時代に窮地に陥り、人よりも遠回りして弁護士になりました。先が見えない時期が長く、本当に苦しかった。そして今は一人の娘の母親ですが、離婚を経験しているので、シングルマザーとして母の手を借りながら、なんとか手探りで子育てをしています」

「そんな私が経営層にいたら、『様々な経験をして、痛みを知る女性がトップにいる会社なんだ』と知って、お客さまだけではなく世間の信頼も生まれると思っています。それはきっと、沢山の素晴らしい出会いと経験をさせてくれた会社への恩返しになると信じています。だから、トップを目指していきたいですね」


女性のリーダーとして、「キャリアを選択できる環境」を整えたい

この4月から「支社長」に就任した藤田さん。女性の前例は極めて少ないが、そのポジションに就任することに「恐れはない」と言い切る。

「人と同じことをしたいとは思いません。真似てしまったら、オリジナルには勝てない。だから、自分がオリジナルでなければいけないと思っています」

藤田さんは今までも、「女性×弁護士×ライフプランナー」という個性に、管理職経験、支社長経験、と掛け算の要素を増やして、自分の価値を高めてきたのだ。

「私自身は、仕事において性別を強く意識したことはありません。フェアな環境で働いていることに感謝しています。ですが、世の中を俯瞰してみるとまだ女性の立場は弱い。育児や家事は女性がやって当たり前。そんな意識も根強いですよね」

藤田さんには、そんな女性の“生きづらさ”に対する、社会の意識を変えてみたいという夢がある。

「プルデンシャルはそのきっかけを作れる会社だと、本気で思っています。まだまだ改善すべき点はある。だから自分が女性のリーダーになって少しずつ変化させていきたい。それが、木村先生との約束を果たすことになると思うんです」

最後に「藤田さんにとって、自分らしく働き、生きるとはどういうことか?」と尋ねると、
「自分の人生の理念と、仕事の理念を完全に一致させられる場所で働くこと」と答えてくれた。

彼女はこれからも、“リーダーとしての志 “という「剣」と、”知識と経験“という「盾」を携え、決して怯むことなく自分の道を歩むのだろう。

撮影:梶 礼哉