「DEAREST→○○ 1時間目ですでにお腹鳴りまくってるよ〜食欲止まらなくてやばいわ。昨日も寝る前にバームロールめっちゃ食べたし。ブルボンは神。てかこの冬、絶対モコモコのハットと手袋買う。みえ©️がハットと手袋同じ色で揃えてて、それがかわいかったんだよ。◯◯が迷ってた白ニットは絶対買いでしょ……」

90年代。学生の頃、友人に手紙ばかり書いていた。欲しい服をイラスト付きで書いたり、先生の似顔絵だったり、お腹が空きすぎたときは食べたいものの名前をただひたすら写経したりもした。彼氏ができたら恋愛の話も。それを複雑なハートやシャツの形に織り込むところまでやって学生の手紙は完成する。

手紙を書くのが好きすぎて、返事を待たずに新しい手紙を書いてしまっていた。小学生の時の交換日記も交換漫画もそうだった。私は自分の番が回ってくると嬉しくてすぐ返事を書く。でも書くのを楽しみにしていた事を悟られるのは恥ずかしいという妙な自意識のせいで、わざと1日遅れて持って行ったりもした。

だから私は今、「読者に向けて手紙を書き放題!」であるエッセイの仕事をしているのだ。……と「だから」という接続詞でつなげてしまうとスッと一本道でこの仕事をしたように見えるがそうではなく、悩みに悩み、紆余曲折してエッセイストになった。

漠然と「書く仕事がしたいなあ」と思っていた私は最初、地元の出版社に就職し、ファッションカルチャー誌の編集者になった。明らかに人手が足りていない状況だったので、新人も特集のデスクをやる状況。やりがいと睡眠不足の狭間で、3ヶ月で体重が13キロも増えていた。ファッションが好きでファッション誌を希望していたけど、お気に入りの服が軒並み入らなくなくなり、ちょっと泣いた。

「やりたい仕事をしているけれど、休みたい」 そう思いながら1年半、難病を抱えた母の介護の人手がいよいよ足りないということで、私が退職し介護をすることに。「徹夜続きよりもマシだろう」「介護しながらフリーで書き仕事ができるように動こう」そう思って一人で大丈夫とたかをくくったら1年も持たず、姉にSOSを出し、一緒に介護をすることになった。あの時は友人のmixi日記を見るのが辛かった。仕事の愚痴ですら「キャリアを積んでいるのだな」と羨ましくなってしまう。大好きな母の介護をしながら私は自分の将来に光が見えなくて、でも書く仕事をしたいと、ヘルパーさんのいる時間に漫画を描いた。

1年、3年、5年……ちっとも芽は出ない。そりゃそうだ、1日3時間しか描けないもの。持ち込んで担当さんがついたとぬか喜びするも、すぐだめだった。6年、そろそろ30歳も近いし書き物を仕事にするという夢を諦めた方がいいのかもしれない。でも、介護しながらキャリアなんてどうやって築くのか、何一つ思い浮かばない。日中も夜中も拘束されているし、そもそも介護だけでクタクタなのだ。好きなことを仕事にする以外、選択肢がないのだ。

最後に、と始めたイラストエッセイブログが編集さんの目に留まりやっと仕事につながった、7年目だった。内容は、学生時代に友達に書いていた手紙のようなものだ。手紙を書きたい欲が溜まりに溜まっていたのだ。「ねえ、こんなことがあったよ」「ねえ、こんな不安がある」「ねえ、この人おもしろかった、腹がたった」ほぼ毎日更新した。もう「毎日更新するの恥ずかしいかな」なんか言わない。


エッセイストになれたのは、運が一番大きいと思う。あの時編集さんの目に止まらなかったらと思うとゾッとするけれど、それはそれで30歳でやめずに誰かの目にとまるまで書き続けていたようにも思う。好きなことが仕事になるだなんて贅沢なことだと思うけれど、切実に好きなことじゃないと無理な状況というのもあるのだ。

みんながみんな好きなことを仕事にするべきだなんて全く思わない。条件で選んだり、趣味のためと割り切ったり、様々なスタイルがある。私の話も美談にしてはいけないものだ。だって介護でキャリアが見えない、は今もある社会問題だからだ。

だからこれは、一人の女性がこんな人生を歩みましたという自分語りの手紙。こうやって書く仕事ができている、それはあの時私の手紙を受け取ってくれていた彼女たちのおかげなんだと思う。


画像: 「書く仕事」 犬山紙子<第一回>

犬山紙子(イラストエッセイスト)
仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職。20代を難病の母親の介護をしながら過ごす。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めたところネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。
2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。その反面、ゲーム・ボードゲーム・漫画など、2次元コンテンツ好きとしても広く認知されている。

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